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法定産業保健

健康診断で健康になるのか??(安衛法の目的おさらい①)

「健康経営? やってるよ、うちは健康診断やってるからね」

ギャグじゃなくて、本気でこんなことを言っちゃう経営者はまだまだいます。

もし、この台詞に吹き出せたとしたら、あなたはかなり正常ですが、

「え? うちもやってるよ、ダメなの?!」って思った経営者もいるのでは???

ダメかダメじゃないかは、何をもってダメかダメじゃないかの定義によりますよね。

まず、従業員に健康診断を受けさせるのは事業主の義務、健康診断を受けるのは労働者の義務です。

義務ってからには法律に定められています、「労働安全衛生法」という法律です。

「知ってるよ、安衛法だろ。安衛法守ってりゃ、従業員が健康になるんだろ。
 だから、うちはちゃんと健診やってるから、従業員はみんな健康だよ。うつになるヤツもいるけど、会社にはいる前からの性格だろ、甘えだろ」
みたいなことを言う経営者、けっこうたくさんいるんですよ。

ホームページを見ると、「社員は最高の財産。健康経営を行っていますdiamondなんて書いてある会社のシャチョーさんですよ、いるんです。いっぱいいます。

「さんぎょーいってーとあれでしょ? 健診とかでしょ、たいへんだよね~~~~」みたいなね。

健康診断って何のためにやってますか?

社員の健康のため、って自信満々に答える経営者は非常に多いんですが、ほんとですか?

健診すれば社員が健康になるって誰が言ったんっすか? どこに書いてるんすか?? エビデンスあるんですか???

もう一度、フツウに整理しましょう。健康診断を受けさせるのも受けるのも法律で定められているので、健康診断を受けさせたり受けたりするのは法律を守る、義務を果たすためです。

たとえば、人を殺すなとかモノを盗むなとか言う内容なら、それがなんていう法律の何条に書いてあるかは知らなくても、なぜいけないかはなんとなくわかりますし、法律で禁じられていると知らなくても、やってはいけないと自然にわかりますよね。

でも、健診って、フツウ、自然発生的に受けさせたり受けたりするものじゃないですよね。じゃ、なんで、なんのためにやっているのか? そのことを考えずに、健診センターに言われるがまま、健診をこなしている企業が多すぎます。

健診を受けるだけで受益するのは健診センターだけです

この、あたりまえにフツウなことを、賢くてケチで情に厚い経営者達がなぜ気付かないんでしょうか?
産業保健領域に関わるあまりにもフツウで当たり前なことが放置されていて、賢くてケチで情に厚い経営者が健康関連、医療まわり、病名とか妊娠とか健康とかの話では急にしどろもどろになってバカみたいな台詞しか吐けなくなる異常さが、私がこの世界にきたきっかけでした。

そもそも、安衛法って何のためにあるのか知ってますか?

「社員の健康を守るためだろ?」なんて言っちゃいますか?

第1条の目的にはこう書いてあります。

第一条  この法律は、労働基準法 (昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。

確かに「労働者の健康を確保する」とはありますが、その前に、「労災防止のために基準を作り、責任を明確にすることで」と書いてありますよね。労働者それぞれの健康水準を上げるという意味合いより、「労災の防止、労災件数の減少」が法律の目的です。

労災死亡者の推移

この法律ができたのは1972年、45年も前の法律で、土台は工場法。

工場で働く人々の労災が多いという社会課題を解決するために作られた法律です。

グラフをご覧になるとわかるとおり、安衛法の施行から労災死亡件数は急峻に減少。

戦後の経済復興、発展の過程で労働関連災害が増加し、1961年には死亡災害が6,712人とピークに達したのですが、安衛法が制定・施行された年から3年間だけでも約2,000人の減少が見られます。これから安衛法の批判をする予定ですが、それは法律の老朽化という問題への批判であり、安衛法がいかに合目的的に作られたすばらしい法令かは、この目的完遂という成果をみれば明らかです。

1983(昭和58)年には2,500人台にまで減少し、その後はほぼ横ばい、そして1997(平成9)年以降は微減という状況ですね。
1983年までの激減における安衛法の効力は疑うべくもないけど、1997年以降の減少は安衛法のおかげって言うより、医療の進歩や労働の変化が大きいと考えます。命をかける工場労働を日本国内でさせなくなってきました。
 
1972年当初、工場労働者の傷病の治療と結核を主とする感染症の予防で医師が必要とされていたので、1938年の旧工場法の工場医が1947年の労働基準法を経て、安衛法と同時に産業医という言葉になりました。
とにもかくにも徹底的なハザード回避と責任体制の明確化によって、労災は劇的に減ったのです。

ミッションコンプリートしたプロジェクト

実際の例ですが、あるクライアント企業で調査をしたところ、数年前まで社内でハラスメント被害経験者が70%近くいたんですね。そこで企業をあげてハラスメント対策をしたところ、あっという間に40%近くまで下がり、対策を継続したところ更にジワジワ下がり、20%を切ってきて下げ止まってました。
70%近かった当初の国内の平均は25.3%だったので、当初は明らかに世間よりもハラスメントの盛んな職場でした。ところが、18%になった今は32.5%という国の平均をよい意味で、追い越してしまったわけです。そう、国全体ではハラスメントの自覚が増えているご時世だというのに。
じゃあ、このあとどうすんの? ってなったとき、15%をめざそう!とかゼロキャンペーン!っていうのは違うと思うんですよね。
25.3%の世界で70%なら解決を要する課題だけど、32.5%の世界で18%なら、それは定義の問題とか、気分の問題とかであり、社内の人とだけつきあってりゃあいいってもんでもないので、社内だけを異常な温室みたいにすることが企業にとっても社員にとっても得かどうかはわからない。私の判断はミッションコンプリートによるプロジェクトチーム解散でした。
仕事の完了体験ってすごく重要だから。

最近の労災さて、なんでこんな例を出したかというと、そういう意味で私は、安衛法ってもう、卒業させてあげたいなって気分なんですよね。まあ、私の気分でエリート労働法がなくならないことはわかってるんですけれど。

リーマンショック以降の労災発生状況は図の通りで、実は死亡件数に関しては昨年、一昨年と新記録を樹立してはいるんだけど、多くの経営者が労災件数が減っているっていう印象より、特に長時間労働とメンタルヘルスに関するお上の裁きがきつくなっているっていう印象を強く持っているんじゃないかしら。

安衛法さえ守っていればセーフ、と思っていたら、「法令遵守のみでは信義則を果たしたとは言えない」みたいな判例がバンバン出ているわけです。そりゃそうですよね、だって安衛法は工場で使う危険な薬剤の濃度を決めるのは得意だけど、労働時間は管轄外だし、メンタルヘルス対策は2015年からのストレスチェック制度までノータッチですから。

もちろん安衛法ってもう時代遅れだから守らなくていい、とは申しません。
でも、検診受ければ健康になるとか、病院に行けば病気が治るとか、幼稚な発想は捨てて、安衛法を守ることと従業員の健康、企業の生産性の確保を同時に達成する自覚を持たない限り、安衛法の遵守は愚か、社内の健康管理、ましてや健康経営なんてできっこないってことなんです。

次回は安衛法施行と同じ年にイギリスで提言されたローベンス報告に触れながら、安衛法のおさらいを進めてみましょう。

 

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