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インフルエンザ

インフルエンザウイルス感染による生産性への影響

Influenza and Workplace Productivity Loss in Working Adults

Jeffrey J. Van Wormer, PhD, Jennifer P. King, MPH, Anna Gajewski, MPH,Huong Q. McLean, PhD, and Edward A. Belongia, MD

JOEM December 2017 - Volume 59 - Issue 12 1135-1139

ARI(急性呼吸器疾患・・・いわゆる風邪症状と考えて下さい)のうち、インフルエンザが診断された群とされてない群で生産性の違いを比較した研究が発表されました。好きなネタなので紹介しますね。

予防(医療)の効果は測定できない

インフルエンザワクチン 効果職域の集団インフルエンザワクチン接種を勧めている心陽ですが、実際にワクチンをするのとしないのではどれくらいインフルエンザの感染が減って、それによってどれくらい生産性の低下によるコストが生じるのかという、経営者にとっては特に知りたいことについて回答することはできません。ワクチンの料金を投資して、いくらリターンがあるのか可視化したいのは当然です。

ところが、このコラムでもいつもお伝えしているとおり、ワクチンによってどれだけのインフルエンザ感染を予防し得たか、ワクチンを受けていなければかかった何人のうちワクチンを受けたからかからなかったのは何人か、という答えは出すことができません。

もしそれが数えられるのなら、最初からその人にだけワクチンを打つのが最も費用対効果の高い方法になりますよね。

ひょっとしたらワクチンを受けることは感染リスクを一切減らさないかもしれないし、増やすかもしれません。もちろん、「理論上」、感染リスクは下がりますから増えると仮定するのはあまりに乱暴です。しかし「増えない」と観察して(数を数えて)証明することは同じ理由で不可能なので、「理論上、感染リスクは減りこそすれ、増えることはありません」と答えるしかありません。

ワクチン接種で抗体価が上がることは科学的に確かめられていて、抗体価が高ければ理論上感染しづらくなります。重症化の予防、軽症化については観察的にも確かめられています。しかし本来は科学的なエビデンスってむしろ理論的なものや科学的な仮説だったはずなのに、最近ではなんとなく疫学的研究のほうが価値があるように変わってきた気がします。それはそれで時代が味方していくれていてありがたいことです。

これまでのインフルエンザに関するコラムはこちらです。

研究の背景と目的

ワクチン 会社

健康と生産性の関係はすでにご存じの通りで、労働者がひとたび健康を損ねると、増大が課題と叫ばれる医療費の少なくとも3倍の労働生産性が失われます。「風邪っぽい(呼吸器症状)から」というのはよくある欠勤理由の一つで、欠勤理由の3分の1程度を占めます。そしてこの風邪っぽい症状で年間1兆ドルを遙かに超える医療費が全米でかかっています。インフルエンザは風邪症状の原因で、全米ではインフルエンザで年間114,000~624,000人が入院し、4,900~27,000人が亡くなっています。

インフルエンザ感染関連医療費については高齢者や免疫抑制による易感染者が注目されることが多いのですが、労働者が感染した場合の労働生産性損失についてもアブセンティーイズムのみならず、プレゼンティーイズムも加味した検証が必要です。1977年の研究ではインフルエンザにかかると症状発現時から平均3.2日間の欠勤に繋がると評価されましたが、「インフルエンザだと思う」という本人の申告によるもので本当にインフルエンザだったかどうかはわかりません。同様に他の研究も申告ベースで、その上、高齢労働者に偏ってたり、季節性インフルエンザのワンシーズン(1年間)だけだったり、それどころか季節で区切ってさえいなかったりでイマイチ。
申告ではなく検査の陽性で調査した先行研究では同様の風邪症状で検査が陰性だった場合に比べて、アブセンティーイズムが21時間対15時間と37%も陽性群のほうが高く、睡眠障害やADL不良、プレゼンティーイズムの増加も観察されました。

いずれにしてもまだまだインフルエンザ感染と生産性の関係では検証されていないことが多いので、アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムをまとめてカウントした生産性の評価やインフルエンザウイルスのタイプ別の評価、ワクチンの有無による差の評価などを、これまでの研究の課題をクリアした方法で検証したい。

方法

心陽 産業医

2012~2013年シーズンから2015~2016年シーズンの4シーズンにまたがって、流行のピークの12~15週間に特定地域の医療機関を風邪症状を主訴に訪れた18歳以上の人(3,081人)のうち、週に20時間未満の労働者(936人)や妊婦(32人)など条件に合わない人を除いた1,278人を対象とした。(左図)

全員にインフルエンザのチェック(咽頭ぬぐい液のRT-PCR)をして陽性の場合はB、AのH3/N2、AのH1/N1pdm09の3種類のどれかを同定した。

プレゼンティーイズムの評価にはWPAI(そのうちコラムで説明します)を用いた。

たとえば8時間労働フルタイム勤務で月曜日から2日休んで水曜日は半日遅刻して、その午後は50%のパフォーマンス、翌木曜日は70%のパフォーマンス、金曜日から100%だとしたら、8×2.5+4×0.5+8×0.3で損失は24.4時間分と計算する。

結果と考察

検査でインフルエンザウイルス感染が陽性の場合は陰性の場合よりも生産性の損失が大きいことが明らかになった。陽性にしろ、陰性にしろ、生産性の損失の多寡にワクチンを受けたかどうかは影響しなかった。また陽性のうちワクチンのタイプ(B、AのH3/N2、AのH1/N1pdm09の3種類のどれか)は影響しなかった。

産業医 健康経営インフルエンザがアブセンティーイズムの原因になることは既にわかっていたが、同様にプレゼンティーイズムの原因になることがわかり、同じような症状でも検査で診断された場合のほうが明らかに生産性損失のコストが高くなることがわかった。

男性や年長者、非喫煙者の生産性が女性や若年者、喫煙者の生産性より単位時間当たりの高いことは既に知られているが、今回、時間で比較をした場合には全社の損失が後者の損失より少ないという有意な結果が出た。

ワクチンが重症化の予防になることはよく知られているが、この研究においては診断後の経過はワクチン接種の有無によって差はなかった。同じような設定の研究で学童の欠席日数に差はなかった。

この研究の強みはしっかりとPCR法でRT反応を認めた群をインフルエンザ罹患群としていることと、4シーズンにまたがって調査していること。それでもプレゼンティーイズムの評価はWPAIを用いた自己申告でリコールバイアスや主観バイアスは避けられない。選択バイアスによる限界はもっと深刻で、「風邪症状を主訴に医療機関を受診した」労働者が対象なので、風邪症状で生産性は落ちているけど病院に行かない労働者による生産性のロスは無視されている。風邪症状で病院に行くのはかなり重い場合が多くなるだろう。

とにもかくにも風邪症状があるとインフルエンザであろうとなかろうと労働生産性が損なわれることはまちがいない。そのうちあきらかにインフルエンザウイルスに感染している場合にはそうでない場合よりも大きく労働生産性が損なわれるとわかった。だからこそできるだけ多くの労働者がワクチンを打つことが重要だ。

そうです、いざかかってしまったらあまり関係ないかもしれないけれど、明らかに感染リスクを減らすはずなんだから、生産性という目線でもフルショットオンサイトを推奨するべきです!!!

 

 

 

 

 

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