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睡眠・覚醒・生産性

睡眠の目的ってなんだっけ?

質のよい睡眠を希求するのは質のよい覚醒のため

セルフケアは最も社会的な行為であるというのが私の持論だが、当然、そのセルフケアには睡眠のコントロールが含まれる。
よく眠るのは社会貢献である。
よく眠ることにより得られるのはよき覚醒であり、日中、自分の強みを活かして生産性を発揮したり、人の役に立ったりして社会に参加できるというわけで、これが睡眠障害による不充分な覚醒の場合は、安全性が損なわれて事故の元になり、活躍すべき場で能力を発揮できず、社会に貢献どころか迷惑をかけ、ときには他者を傷つけたり、殺したりしてしまうことすらある。
睡眠不足が覚醒度を下げて、それが非常に衛生上も安全上も危険であることはよく知られている。
睡眠障害の治療は日中の眠気を最小限にして集中力や生産性、活動力を高め、バリバリ活躍するために行なわれるものである。
一方で不眠症治療として頻用される、ベンゾ、非ベンゾと呼ばれる睡眠薬はGABA系という脳内の抑制回路を賦活化し、患者が眠りたいとき、理想として眠るべきときに、眠気を起こさせる薬である。
 
「眠気を取る」のが目的なのに、「眠気を起こす」薬を飲んでいるという事実に注目してほしい。
 

〇〇病、〇〇不全でも、睡眠薬の使用が可能という研究

科学的なエビデンスは一定のルールに則って成立する。実は日本では、特定の疾患や病態においても睡眠薬を安全に使えますよ、という報告が非常に多い。GABA系の鎮静剤は代謝上、つまり生化学的には比較的安全な薬であり、一定のルールのもとで、こんな人に使っても安全ですよという結果が出しやすい。同じロジックで研究できるために学位量産プロセスとして発表されているのではないかと思うほどだ。
たとえば腹膜透析中の不眠は閉塞アラームなどの器械的な中途覚醒やそれらへの不安によって起きることが多いが、肝で代謝されるので腎不全患者にも安全に使えるという結論を出してしまう。
GABA系の鎮静剤には耐性と依存症という2つの恐ろしい性質があり、不眠に悩む多くの社会人は目覚めて活躍したいことが目的であって、眠気を求める中毒者ではない。
 

睡眠薬 あぶない本年4月の第115回日本内科学会でも従来睡眠薬の原則禁忌とされている慢性呼吸不全患者に対する睡眠薬投与が高二酸化炭素血症を増悪させず生命予後にも影響しないという発表があった。

なぜかこれを、慢性呼吸不全患者には睡眠薬を投与したほうがいい的に誤解してしまう医者が多いように感じる。
慢性呼吸不全患者は当然高二酸化炭素状態にあり、座位より臥位のほうが呼吸しづらく、不眠などの睡眠障害を訴えることが多く、患者全体の3~4割といわれる。GABA系が賦活化すれば鎮静が進み当然呼吸抑制が出て低換気となる。そのために低酸素・高二酸化炭素血症を来すほか、高二酸化炭素血症への感受性を鈍化させる、呼吸筋力を弱めるなどの報告がある。これは慢性呼吸不全の人にのみ起こることではないが、慢性呼吸不全ではもともとのキャパシティーが少ないために原則禁忌になっている。
 
GABA系睡眠薬の消費量は、国民一人当たりへの処方で見ると日本は米国の7倍近い。米国人のほうが体も大きく薬も効きにくいのにもかかわらずだ。
(United Nations, Report of the International Narcotics Control Board on the Availability of Internationally Controlled Drugs: Ensuring Adequate Access for Medical and Scientific Purposes, 2010)
 
睡眠薬が慢性呼吸不全患者の主観的睡眠の質を改善する報告がある一方で、睡眠について主観的な評価が妥当かどうかについては別の知見が出始めている。すなわち、我々はたとえばショートスリープなどの理想的とは言えない睡眠習慣に「慣れる」と考えてきたが、それは心理的になれていて、眠気の感覚、覚醒度低下の知覚が鈍麻しているだけであって、肉体の反応速度や判断力など、いわゆる生産性に直結するリアルな機能は睡眠不足状態に慣れることなどないようだ。これらは心理的な眠気尺度(KSS-Jなど)と器械的な検査(PVTなど)との結果の解離として示されつつある。
生命予後と関連がないというエビデンスは鎮静剤を投与するべきという推奨ではないことを医療者と患者のどちらもが自覚したい。
 
出してもいいかどうかを考える前に出さない治療を考慮する、それが医療者に求められる姿勢だ。

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