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生活習慣病とよくある疾患

水の飲み過ぎを心配するなら

本日は、昨日のコラムに補足します。

どちらかというと医療寄りの内容になりますが、まだまだ、「水の飲み過ぎは毒」という思い込みを捨てきれない方々のためにだめ押ししてみましょう。

低ナトリウム血症の疫学とDHMOの毒性について

低ナトリウム血症というのは血液中のナトリウムの濃度が低い状態で、おそらく「塩分が足りないという非常に不健康な状態」として世の中に水の害を喧伝する人々によって、まるで熱中症よりも一般的な病態であるかのように取り上げられる、別名「水中毒」です。

DHMOさて、水中毒の前に、皆さんはDHMOという物質をご存じでしょうか。

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摂取しすぎると死ぬ恐れがある危険な物質で、その物質に完全に浸されると呼吸が妨げられる水酸の一種で、常温で液体の物質です。溶媒や冷却剤などによく用いられ、気体、液体、固体のそれぞれの状態で事故や災害の原因にも
なります。この事故や災害で命を失う人は世界中で後を絶ちません。
 
DHMOを法律で規制するべきだと思いますか?
 
頷いた方が多いかもしれませんがDHMOは「水(H2O)」です。規制の必要はありませんね?
ウソを言わずに、なんらかの方向に人を誘導することは可能です。
ドリンクメーカーがドリンクを売りたいのは当たり前、水道をひねるかわりにお金を払ってスポーツドリンクを飲ませるのは、なかなかたいへんです。
 

水分の量疫学というのは、ある病気や病態についてどれくらいの割合で起こるのかとか、年齢や性別、地域などの属性によって起こりやすさがどう変わるのかなどを、たくさんの数の人々を観察した上で統計的に示すものですが、健常者レベルでの低ナトリウム血症の罹患率については、いろいろ調べましたが明確な記載がありません。

これはあまりに少ないので、0.0001%未満みたいな形式でしか表せないからです。
一方で入院する小児に限ってみてみると、15~25%程度とかなり大きな数字が出てきます。
小児の低ナトリウム血症の原因は嘔吐や下痢などによる脱水に対するナトリウムを含まない水分補給の割合が多く、これが、同じように脱水症状を呈する熱中症と混同しやすい理由ではないかと考えます。
また、小児で影響が大きいのはその体内の水分割合にも関係がありそうです。一方で高齢者の非労作性熱中症でも低ナトリウムの報告はあります。
産業保健領域でメインとなる屋外・屋内暑熱環境における労作性熱中症とは区別して考えてよいでしょう。

TUR症候群

小児科では低ナトリウム血症はよくある疾患といえそうですが、一般成人臨床では低ナトリウム血症にどれだけお目にかかるのでしょうか。一般と入院で大きく割合が異なることから、何らかの原因があって二次的に起こる状態だということがわかります。
水は大事
ナトリウム血症とは,血清ナトリウム濃度が136mEq/L未満に低下することで、溶質に対する水分の過剰が原因ですから、利尿薬の使用や下痢によって尿や便が過剰に出てしまう場合や、心不全や腎疾患などで起こります。特に急性低ナトリウム血症では、臨床症状は主として神経学的なものであり(浸透圧によって水分が脳細胞内に移動し,浮腫を引き起こすことが原因)、頭痛、錯乱、および昏迷などがみられます。痙攣発作や昏睡が生じることもあります。
長く(古く?)麻酔科医をやってきた私には、この水中毒、実はとてもなじみ深い病態です。というのは肥大した前立腺を尿道から入れた内視鏡で削ってサイズを小さくしていく手術で、内視鏡カメラの視野を得るために水を入れて広げるのですが、以前はこの水の中で電解質がイオン化すると電気を通してしまうため、電解質を含まない大量の灌流液を使用する都合上、血管内に吸収された灌流液で血液が希釈され、水中毒が起こることがありました。現在では電解質を含む灌流液環境下でも使用できる専用電極と電気メスの組み合わせが開発されたため、生理食塩水を灌流液にしています。当時は水中毒の症状として最初に現れる神経症状が本人にしかわからないため、脊椎くも膜下麻酔に、場合によっては両側閉鎖神経ブロックを組み合わせてアウェイクで管理することが一般的でしたが、時は移り、手術サイドだけでなく長短時間作用性の麻薬や筋弛緩薬、安全な拮抗薬などが続々と開発され、限定的な職人技を求められる麻酔は不要になりました。
誰でも安全に実現できる医療が理想なので素晴らしい進歩ですが、使い道がなくなったかに思えた過去の経験がこうして時を変え場所を変えて産業保健の分野で活かせることは感慨深いものがあります。
 
暑熱環境での肉体労働はともかく体内の水分が奪われます。
お茶やお水を勧めましたが、スポーツドリンクでもコーヒーでもともかく好きなものを、飲むという行動を起こしやすいものを、一番たくさん飲める組み合わせで、好きなように飲んで下さい。
少なくとも「飲まない方がマシ」な液体はないと思って、何を飲むにしろ「飲んだ方がマシ」と、なんでもごくごく飲んで下さい。
ただし、糖尿病があったり、減量中だったりする場合は、飲み物に含まれる糖分にも気をつけて下さい。
 
ちなみに、「熱中症 水中毒」で検索するとコカコーラのページが1位、2位、医療系ではない情報サイトが3位なのにくらべて、「heatstroke hyponatremia」で検索すると3位まですべて医学的な研究でした。
適切な情報にアクセスしたいときは、英語に直してみるというのもオススメです。
 
 
 
 

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