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法定産業保健

ブラック産業医(2)産業医の「診断」?

産業医のくだす診断名の意義

「ブラック産業医が復職阻止、クビ切りビジネスをしている」弁護士が警鐘では、

組織内のパワハラやいじめに悩まされ、うつ病を発症し、休職した社員が、主治医の復職可の診断書を携えて復職を申し出たのに、復職を否とする意見書を出した産業医

をブラック産業医としています。

会社はその勧告を受け入れて復職を認めず、休職期間満了で退職扱いされたという事例で、このブラック産業医は精神科専門医でもないのに、30分の面談を1回しただけで、主治医への問い合わせは一度もなく、心理検査もしないで、「統合失調症」「混合性人格障害」などの病名をつけたそうです。

もう一度、安全衛生法に戻ります。
産業医に関係するのは主にこの部分です。

(産業医等)

第十三条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、医師のうちから産業医を選任し、その者に労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項(以下「労働者の健康管理等」という。)を行わせなければならない。

2 産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない。

3 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。

4 事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。

法律で定められているのはこれだけなので、傷病休職後の復職という労働者の健康管理に関連しそうな事項において、事業主が医学に関する知識を活かした助言を産業医に求め、産業医がこれに応じて必要な勧告をする場合、事業主はこれを尊重しなければならないということです。

産業医が従業員に病名をつけるのは自由です。診断という表現が適切かどうかはわかりませんが、病名をつけるくらいならいいでしょう。

産業医は産業医として企業で医療行為を行ないません。
医師は医療機関で医師として、医療行為を行ないますが、産業医としては医療行為は行ないません。
もちろんオンライン診療ガイドラインでは職場を療養の提供の場とすることを認めていますし、出張健診や出張ワクチン接種、往診などは職場でも可能ですが、それができるのは医療機関に所属する医師が医療機関の業務として行なう場合です。
そもそも医療機関しか医療という業務を提供できないルールです。

ですからこの病名をつけるという行為がニックネームをつけるくらいの意味合いであればいいのですが、診療行為としての診断だと産業医の越権になってしまいます。

でも、医者というのはそんなに器用な性質でないことが多いので、慣れ親しんだ病名を産業医業務の円滑化に整理目的で使用することくらいは許してあげてもいいでしょう。
そもそも産業医に限らず、医師の職務は病名をつけることではありません。それどころか医学教育では「病を観ずして人を観よ」と教わります。医業において病名が必要なのは、保険診療分の保険がカバーする部分を請求する際です。

私はこの病名至上主義のシステムに大いに異論があり、このしくみが病人を量産していると考えていますが、制度なので従わざるを得ません。要は病名と医療行為がセットになっていて、その人が誰であるかではなく、病名が何であるかという根拠で医療費の支払が行なわれています。正直言って、病を観ずして人を観たいまともな医師たちはこのルールに戸惑ってます。

産業医を取り替える

病名には必ずしも「当たり」や「正解」があるものでもないですし、たとえば高血圧や高熱がないと判断された人に血圧や体温がないわけではないので、患者さんの生活にとって必要な医療が届くように診断名を塩梅することもあります。

医療の目的は人々がより豊かな人生を楽しむことであって、病名をつけることではありません。苦痛から解放されて、快適に最大限のパフォーマンスを発揮して、存分に社会のために働くために医者にアドバイスを求めるのは、この医者が産業医でも主治医でも同じことでしょう。

よって、この産業医がなんらかの整理のために病名をつけたとしても、あだ名をつけた程度の価値しかありません。

腋窩体温計で測った体温が35度6分であった従業員に、産業医がそれを根拠に

「高熱のため就業停止」

と言っているのと同じなので、納得できなければ、

「え? なんで5度台なのに高熱なんすか?」

って訊けばいいですよね。
もし、この産業医が、

腋窩体温計の感度は43%、顔も真っ赤でぐったりしていて明らかに触ると熱い。直近で体温を測った従業員20人が全員連続して35度6分だったことから、体温計の故障とこの従業員の発熱を主張する」

と明快に答えたなら自分で従業員に触って確かめてみればいいし、それでも高熱はなさそうで、従業員本人も就業の継続を望んでいて、実際に期待する労務の提供が充分にできるのなら、休ませる必要はありません。
事業主のつとめである「産業医の意見の尊重」は充分にしたのですから、その上で体温計も壊れていないし、従業員も休む必要がないのなら、考えるべきはこの産業医が壊れているということで、取り替えるのは従業員でも体温計でもなく、産業医、という判断を事業者がすればいいだけのことです。

ブラック産業医

従業員に就業停止を命じられるのは事業者だけです。産業医の意見は企業の従業員にたいして何の効力も持ちません。産業医が従業員の肩を持ったとしても、事業者の肩を持ったとしても、それはそれだけのことであって、事業者も従業員も、それに従う筋合いはありません。

前回「ブラック産業医(1)」の冒頭で、ブラック産業医を取り上げる価値がないと述べましたが、それはこういう意味で、たとえ産業医が機能不全だったり、機能不良だったり、壊れていたりした場合は、特に意見に従う必要はありません。企業がブラック産業医に振り回されることは構造的にあり得ないのです。

大切なのはそういうときに産業医との契約をすぐに切れるようにしておくことです。産業医の業務とその目的を明記して、依頼を無視した業務態度の場合は取り替えることです。もちろん選任義務はありますが、明らかに産業医サイドの事由によるテンポラリーな不在はしっかり説明すれば罰則の対象にはなりえません。あくまで従業員のよりよい健康管理が選任の目的なのですから。

もし、産業医が従業員を苦しめるような動きをしているように見えたとしたら、やはり黒幕は事業者と考えるしかありません。それであれば、弁護士たちが提案しているような産業医に対する規制はあまり物事を解決しないでしょう。

次回はここでブラック産業医とされている事例から、産業医の専門性、トレーニングをした診療科の影響についてお話しします。

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