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法定産業保健

ブラック産業医(4)法律を足す or 制度廃止

まともな産業医を社会で育てる

あらゆる法律はその成立時の啓発意義が大きく、どんな良法であっても形骸化すると考えています。

新しい法律を作って、社会が産業医をよりよいものに育ててくれるとしたら、それは素晴らしいことですし、そのような提言をしてくれる法曹界の方々に心からお礼を言いたいです。

AI産業医

そもそも産業医に限らず、医師の診断というのはなんら法的拘束力を持つものではないということは重要です。もし医師の誤診が法で裁かれるようなことがあれば、医師は診療に当たれません。むろん医療過誤と誤診は全く概念が異なります。体温の例でいえば、たとえ体温計が壊れていても、正しく高熱を診断しなければならない一方で、これを法律で定めようとすると、体温計で何度以上を高熱とするという記載しかありえない、という意味です。下手をすると体温計が壊れていたり、体温計が手元になかったりという理由で、明らかな高熱を法的に高熱と診断できずに、解熱という簡単な治療が違法になってしまうリスクがあるのです。

もし、医師の細かい判断や診断に、それこそ明文化された法律があてはめられたら、医師の葛藤はずいぶん減るでしょう。
そんなふうになんらかのルールで分類していくことで診療が可能なものなら、それこそAIにすべてを任せてしまえば、医師不足も医師の過重労働も医療不信も医療費高騰もブラック産業医も、みーんなまとめて解決してしまうのだから、むしろ可能だという見込みがあるのなら、国をあげて開発するべきです。

AI ドクター

医師は全員、この世から病気も患者もいなくなればいいと思っていますから、病名をこしらえて病人を増やすのではなく、医療を完全に機械化して医師も病人もこの世からなくしてしまえばいいんです。

なくせなくても機械が変わってくれる業務が拡大することは歓迎されます。医師は機械にはできない、医師にしかできない業務にどんどん集中することができ、医療の質は(医師の質も)確実に上がるでしょう。

さて、それはどうにも難しいと皆さんも思っていらして、私もそう思います。生きている人のあれやこれやを、なかなか0か1かで判断できるものではなくて、ちょうど医療というのはそんなところでぷかぷか浮いているのです。

まともな産業医を、法律を用いて、社会が育てるのはたいへん素晴らしいことで、それができるならまず医師全体でやってほしいです。まともじゃない産業医がなにかよからぬ作用をするのなら、産業医制度をやめてしまえばいい、とこのシリーズの第一弾でも主張したとおりです。とはいえ、医療制度をやめるのは難しいから、社会の資本を割くならむしろ、医師を対象にしてほしいモノです。

いずれにしましても社会が医師を変えてくださろうとする姿勢にはただただ感謝です。

お金を払う相手に迎合するのは産業医だけ?

お金を出してくれる企業に迎合せず、産業医に正しい診断が下せるのか? という論調で新しい法律の提案につながるのですが、ここにはそもそもの論理の破綻があって、産業医に「正しい診断を下す」という役割がそもそもないし、もし法律が、産業医に正しい診断を下させることが可能ならば、それこそ産業医に限定せずに、すべての医者に対して正しい診断が下せるようにしてほしいです。

この世に医師なんていらなくなるか、医師が医師にしかできない仕事に専念できて、医師の働き方改革にも大きく貢献できそうな夢の法律、つまり、グッドプラクティスをしてしまう設定としての行動経済学的な法制ではなく、カットオフポイントを設けて魔女狩りをするための法律、お金を出してくれる、依頼主である企業への配慮をさせないための法律・・・云々に関しては、こちらのブログがとてもわかりやすい反論をしています。まともな産業医とそうでない産業医を分けて別々の対応をする前提は、まともな従業員とそうでない従業員健康な従業員とそうでない従業員リスキーな従業員とそうでない従業員をわけて議論することと一緒で、最もくだらないことです。

弁護士たちの主張は、産業医は企業から報酬を得るので、企業に利する働きをするというものですが、そりゃそうでしょう! って普通なら思いますよね。企業がなにか果たしてほしい役割があって、産業医という専門職に有償でその業務を依頼しているわけですから、企業が産業医に果たして欲しいその役目を産業医が行なうのは当然であって、企業にお金を払われているからって、企業の言うとおりにするのはおかしいというロジックは摩訶不思議以外のなにものでもありません。

弁護士だって、お金を払って依頼してきた人の得になるようにふるまうのではないのでしょうか? むしろそうではない業務遂行のベクトルがあるのなら教えてほしいくらいです。

むろん、前回のコラムで述べたように医師として最低限の安全である善意、医の倫理、法律には従います。たとえ依頼主である事業者に請われても犯罪に手を染めることはありません。しかし、「金を出す者に迎合する」のは必ずしも悪いことではありません。むしろ日本の産業医制度が機能していない原因の一つは、ごくごくシンプルなルールである労務の対償性が理解できていない名義貸し名ばかり産業医が存在していることです。労務と報酬を交換するのは最もシンプルなルールです。出してもらうための努力をするのは当然でしょう。

 
三文あるけど全然三段論法になっていないので注意が必要ですが、①産業医は10社、20社と掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができるでしょう。ブラック産業医(1)でお示ししたとおり、だいたい1社2~5万円くらいもらえますから、20社掛け持ちすれば、月に40~100万円くらいもらえるでしょう。年間では480~1200万円になります。この金額が、目くじらを立てられるほど高額でしょうか。皆さんは医者が高額な報酬と責められながら手にする年商が、この程度だと知って、どう思いますか?
もちろん、60社70社とかけもちしている産業医もいますから、その際はもう少し立派な数字になるかもしれません。
ただ、20社かけもちしていればおそらく産業医以外の仕事はしていないので、完全に専門性の高いプロの産業医ですよね。
専門性を活かした医師が、この金額を正当に稼いだとして、新たな法律を作って阻止しなければならないほどのことでしょうか。
弁護士さんは案件を掛け持ちするのかしないのかわかりませんが、1回2万円ってことはないのではないでしょうね?
対抗馬としてでている主治医の先生方も、年間480万円で暮らしてはいないはずです。
企業に営業をかけなければ新しい契約は結べませんし、仲介会社を通せば半分くらい持っていかれてしまいます。
この480~1,200万円がすべて産業医のポケットに入るわけではありません。
 
お金を出してくれる企業に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか? というのも、弁護士さんの言葉とは思えなくて、何度も何度でも申し上げますが、産業医は診断を出す必要がないし、産業医の診断って何の効力もないんです。何の力もない産業医の診断をこんなに取り上げるのがよくわかりません。
それこそ弁護士はクライアントのキャラクターや意向の観察や聴取を仕事に反映させないのでしょうか。事例の客観的な分析のみであれば、弁護士の仕事もAIに変わってもらった方がリーズナブルですね。
 
現状は、本人の良心に委ねられているだけで、産業医の中立性、専門性を担保する制度が存在しませんとここまで明確に言ってくれているのなら、「産業医の中立性、専門性を担保する制度の構築」が求められていることのように思います。
 
 
これって「産業医」を「主治医」、『企業』を『患者』に置き換えても文章が成り立つと指摘して、
 
「主治医は100人、200人と患者を掛け持ちすれば、高額な報酬を受けることができます。お金を出してくれる患者に迎合せず、診断を出すことができるのでしょうか。現状は、本人の良心に委ねられているだけで、主治医の中立性、専門性を担保する制度が存在しません」
 
ほんと、そのとおりです。人と人とのつきあいで、中立ってそもそもなんでしょうか。
患者に迎合しますよ、私は。恋人だと思ってつきあってます。ひいきしまくりです。そりゃそうでしょう。
 
産業医の20社は契約もなかなかたいへんですが、月に一度は訪問が必要なので、どんなにがんばっても50社がせいぜいです。1社2万円で月100万円ですが、一日に15人診察するのはそうたいへんではないので、月に300人掛け持ちして1人5,000円で150万円です。1日に50人診る先生もいます。
 
中立性を担保するべきなのだとしたら、主治医もするべきだし、ただ、人と人との関係で、中立性って何なんだろうと。
 
弁護士だって中立じゃないでしょう?
 
また、医者が何らか医療上の判断を行なう際に「働いていい」というよりは「療養が望ましい」というほうが言いやすいという圧倒的事実もあります。
復職ではなく休職の際、「働けそうなのにな~?」と思ったけど、主治医から「療養が望ましい」と診断書が出て休職をスタートさせた体験は多くの企業がお持ちなのではないでしょうか。
それは必ずしも主治医が誤診しているわけではなく、医療的に療養が禁忌な状況ってないんですね。「療養」が望ましくない人なんてこの世にいないので、魔法の文言でもあるわけで、これは産業医が用いても同じ論理なんです。

人権派(?)弁護士が考えるソリューション

(1)復職の可否について、産業医と主治医の判断が異なる場合、産業医が主治医に十分な意見聴取を行うことを法令で義務化すること

(2)法令による産業医に対する懲戒制度の創設

(3)メンタルが原因による休職の場合、精神科専門医でない産業医が復職の可否を判断できないようにすること。

(1)のような産業医が、主治医に充分な意見聴取を行なう際、産業医の報酬は企業が払うかもしれませんが、主治医の報酬は誰が払うのでしょうか。法律で義務化されれば主治医も断りづらいし、産業医が主治医とのアポを取ったり、返信を待ったりしている間に、休職制限期間が来てしまう場合はどうするのでしょうか。
反対に産業医のほうが人道的に復職を支援していて、主治医が業務内容も聞かずに療養の延長を主張し、従業員が社会的に孤立しようとしているような場合はどうなるのでしょうか。
充分な意見聴取を行なうの充分の定義が難しく、現状の勧告がゴールなのであれば、勧告という決定権のないものの成立プロセスを複雑にするのは、社会全体のコストにしかすぎません。

こちらのページの最初の回答にあるような、「産業医の解任を禁ずる」ような法令はなく、当然ですが従業員の不当な解雇はしっかりと禁止されています。してはいけないのは従業員に対する不利益取り扱いであり、産業医なんてどう取り扱おうとかまいません。嘱託産業医は従業員ではなく、単なる外注先なので、労働法や就業規則を適用する筋合いもなく、むしろ最初から産業医が気に入らなければすぐに取り替えられるような契約を締結しておくことを激しくオススメします。

取り替えるなら従業員より産業医。嘱託産業医を取り替えるのはコストではありません。

(2)は専属産業医で社員なら就業規則の懲戒処分を適用すればいいし、単なる外注なら切ればいいだけで、懲戒よりもっとひどい対応が許されているのだから、どんどん切ればいいでしょう。現状でも「おかしな産業医が法令を守りません!」と労基署に報告すれば、対応してくれるのでは?

(3)に至っては「お金をくれる人に迎合する」と言った同じ口で言われると、この弁護士さんたちが精神科産業医からお金もらっているとしか思えません。どうでもいいんですが、そんな法律を作って、メンタルヘルス不全から復職する人の復職チャンスが減ったり、復職時期を誤ったりする責任は誰が取れるのでしょうか。

ブラック産業医は精神科以外の産業医という大前提があるようですが、精神科にしかできないと思うなら最初から産業医の選任要件で精神科専門医だけにすればいいし、それでは人数不足で立ちゆかないというなら、産業医制度を廃止することです。

弁護士によると、「医師であれば専門にかかわらず、50時間程度の講習を受けるだけで、産業医の認定を受けられるという」となんだか精神科以外の医師がズルして産業医になったみたいな風情ですが、それは誰も特に隠してませんよ?

建増しの連続で立ちゆかなくなった安衛法

そもそも産業医の機能不全の問題は、法律と時代のギャップによるその場しのぎの建増しを45年間、続けてきたことで、世の中の誰からも全貌が見えなくなっています。

産業医なら、精神科の専門家である前に安衛法を読んでおく必要があるし、クライアント企業の就業規則にも熟知していなければなりません。それでもそんなまともな産業医はほとんどいない上に、いなくても儲かっている企業がいくらでもあります。

この現実から見えるベストな解決策は産業医制度の廃止で、この策は確実にこの世からブラック産業医を抹殺できます。

今のしくみの中でもまともな産業医は機能するという齋藤先生の心強いご発言には心から賛成しますが、そういうまともな産業医には制度がなくても需要があるはずなので、制度の廃止によって何か困ることはないように思います。

4回にわたってお送りしてきたブラック産業医問題、結局最初に言ったとおり、産業医制度廃止推しになってしまいましたが、まあ、産業医もさほどつまらない仕事ではない、というか、おもしろくやりがいのある業務です。

先日、クライアントの社員から、「先生は私の心の主治医です」というお便りをいただきまして、それはもうジーンとくるもので、産業医も人の子ですから、そんなことを言われたらなにがなんでも力になろうと思うものです。

そんなお便りどころか自殺予告や脅迫状めいたものが届けられることもあるようですが、できれば産業医に送る手紙には励ましの言葉をお願いします。

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