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健康経営

健康経営とポピュレーションアプローチ(1)

間違いだらけの健康経営からハーバード流の本物へ

ハーバード流健康経営

猛暑の日本を逃れ、周囲に仕事を押しつけて、ボストンで新しい知見をたくさん仕入れてまいりました。
日本でも人気の高い社会疫学、行動経済学のイチロー・カワチ教授、消防士など高ストレス職場の心疾患および睡眠に関する産業保健の世界的権威 Stephanos Kales教授というハーバードで社会医学を代表する二人の教授に招かれて、心陽式健康経営について多くのヒントや励ましを得ることができました。
 
本日は、なぜ戦略的健康経営においてポピュレーションアプローチが望ましいのかという弊社の根っこの部分をあらためて丁寧に説明したいと考えています。
イチロー・カワチ教授からは、
「もう僕のかわりにできるんじゃないの?」
とおっしゃっていただきましたが、超人気授業である社会疫学のコースも今回で5回目の聴講をしてきました。あらためて私の推進するポピュレーションアプローチによる健康経営が社会疫学や行動経済学をベースにするとたいへん馴染みがよいということを確認しました。
イチロー・カワチ教授にご許可をいただき、ハーバードの現役学生からも常に最高の人気を誇る名物授業のエッセンスを盛り込みながら、企業ができる真の健康経営の姿を明らかにしていきましょう。
非常にボリュームのある内容なので、できるだけ細かく分けてお伝えしていきます。

Geoffrey Rose  Rose's Strategy of Preventive Medicine

予防医学のストラテジー

ポピュレーションアプローチの理解のためにはまず、ジェフリー・ローズ先生の予防医療の歴史的名著について触れなければなりません。
社会医学のバイブルとも言えるこの名著は邦語訳され、その訳文も平易でワクワクする素晴らしいものです。非医療者でも読みやすく予防医療のなんたるか、そして真の健康経営とは何かが腑に落ちるものですから、ぜひご一読下さい。
 
 
はい、この邦題こそ「健康経営そのもの」だと気付きましたか?
そうです、健康経営には土台となるいくつかの考え方、概念があり、ローズ先生の主張は職域に限ったことではないのですが、この考えを職域に適用すると同じ1992年のRobert. H Rosen先生によるHealthy Companyになります。
奇しくも両先生とも名前にROSEが。。。正しい健康経営の先にある、バラ色の職域が目に浮かぶようです。
 
やや無理がありますが同じローズつながりの有名人、ローズベルト大統領 Franklin Delano Roosevelt に目を向けてみます。(かなり無理がありますかね)
 
フランクリン・ローズベルト大統領は、ヤルタ会談の2ヶ月後、脳卒中によって突然死しました。
発症時の血圧は、300/199mmHgだったと言われています。
現在、国際標準の高血圧のカットオフ値は120/80mmHgですから、この数値がいかにぶっ飛んだものかはなんとなく想像がつくと思います。
 

大統領の死

当然ですが、立派な医師団が彼の健康にそれまでも配慮を続けていました。
ちゃんと血圧も測っていて、選挙やらDデイやらヤルタやらで急上昇する状況も確認されていました。
あきらかに職務によって悪化するのですから、ある意味、産業保健的疾患だったわけですし、実際に合衆国憲法第2条により、現役大統領の死は労災どころか「戦死」扱いとなるのですから、そりゃあ国威をかけて避けるべく、優秀な医師団がケアしていたのです。
 
「薬飲んでなかったの?」と思いますよね。
「飲み忘れ?」なんてね。
2018年に生きる私たちは単純にそう思いますが、
「高血圧と死亡率に関係があるらしい」
という話題がアカデミアに出はじめたのが、ルーズベルトが亡くなる1945年の数十年前で、
「血圧を下げることが死亡率を下げる」
という、現在では子どもでも知っているレベルで当たり前の世紀の大発見は、1949年から始まるフラミンガム疫学研究を待たなければなりませんでした。
 
さて、疫学研究とは何でしょう。
心陽の健康経営とポピュレーションアプローチを語る上で「疫学」は省けない項目なので、少し脱線しながら説明します。

John Snow  Pioneer Anaesthetist and Epidemiologist

図を見てわかるとおり、ちょうどルーズベルトが亡くなった1945年を境に、世界の死因に大きな変化が見られます。
 

死因の推移

最も皮肉なのはその辺りでデータが飛んでいること、戦争の恐ろしさはこんなデータからも「途切れ」として垣間見ることができます。
 
これはひとつの疫学データです。
 
これでわかることは、世界の健康への脅威は結核や胃腸炎、肺炎という衛生要因による一元的な感染症から、心理社会的な要因が多元的に作用する悪性新生物と生活習慣病の果ての心血管疾患にシフトしていることがわかります。
感染症が解決できたから、感染症からsurviveする人が増え、これらの疾患を発症するまで元気でいるのも一因です。
感染症が解決できたのと同じ集団免疫の強化で、心理社会的な疾患も充分に解決する、それがすなわちポピュレーションアプローチですが、今回は別の切り口の説明を続けて行きましょう。心理社会的不健康リスクの集団免疫強化については、近いうちに公開しますので、楽しみにして下さい。
また、現在の健康脅威は感染症でも高血圧でもなく、孤独です。こちらの話題も健康経営に大いに関連しますので、いずれ触れましょう。
 
ウィキペディアによると、疫学は「個人ではなく、集団を対象とし、疾病の発生原因や予防などを研究する学問」であり、日本疫学会は「明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれらに影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義しています。
 

コレラ マップルーズベルトの死からさらに90年さかのぼる1954年、世界最初のビジネス麻酔科医でもある敬愛するジョン・スノー先生は、特定の井戸の周囲でコレラが発生していることに気付きます。
ローズ先生の「予防医学のストラテジー」にもごくごく最初にスノーの名前が登場します。
その井戸は近隣でちょっと評判の、おいしい水の出る井戸で、もっと近い井戸があるのに水を汲みに来る人もいました。そして彼らは同様に、彼らの地域で珍しくコレラに罹患します。
スノー先生は「明確に規定された人間集団=特定の井戸の水を飲んでいる集団」の中で出現する「健康関連の事象=激しい水様性下痢による脱水症状」の頻度と分布を観察しました。

そう、スノーは麻酔の父であると同時に疫学の父でもあるのですね。
 
「この井戸から水を飲むな!」と叫んだスノー先生は、完全に炎上し、ディスられまくります。
それでも正義のスノー先生は井戸の水を飲ませまいと、くみ上げポンプの柄(え・ハンドル)を折ります! 
こういうところ、行動経済学の父と言ってもいいんじゃないかくらい私のツボです。
で、また炎上・・・・・・麻酔科の父、疫学の父、ビジネス視点の医療の父であり、エリザベス女王の無痛分娩まで行ないながら、けっこうディスられまくり、炎上しまくりの人生でした。(そこもなんとなく共感)
 
スノー先生は「麻酔科医と疫学者のパイオニア」と紹介されることが多いのですが、まさに私にとっても父のような存在です。
 

経営者の鑑

ほどなく井戸の周囲で大流行していたコレラは鎮圧されますが、誰もスノー先生を褒めませんでした。あいかわらずの変人扱いです。
当時、コレラが蔓延するのはオカルト的大気汚染みたいなものが理由だと信じられていて、非道徳的な人の存在によって発生する毒気みたいなものが人々の体をむしばむのだと本気で考えられていて、それがゆえに魔女狩り的な発想につながっていました。
感染症という概念がこの世にないときに、毎日の生活の糧である水が原因だと疑うなんて、いくら鮮明な疫学データがあってもよほどの変態、もとい天才じゃないとできません。
 
病因としての感染とその対策の発見同様、病因(リスク)としての高血圧とその対策の発見は同様に、前提に疫学研究ありきなんですね。疫学データがあってはじめて疑うことができるのです。
 
疫学データがあってはじめて疑うことができるというのは真であって偽な部分があって、疑ってはじめて疫学データを集めるほうが真に近いかもしれません。
たとえば昨日、世界一賢い大学をふと眺めたら、部屋の天井がやけに高いんですね。むむ、天井の高さとIQの高さやイノベーションの発現度には関連があるんじゃないか、と思うわけです。そこからデータを取っていくわけですね。
スノー先生は特定の井戸、また特定の水道会社とコレラの関係から、原因不明に致死的脱水をもたらす下痢症候群の原因を飲み水だと見当をつけました。コロンブスのたまご同様、血圧もコレラも正解を知っている私たちには滑稽にさえ映る攻防ですが、現代、私たちが恩恵にあずかっている医療の背景にはたくさんのドラマがあったのですね。
 
ところで井戸の柄を折るスノー先生の行動、これってポピュレーションアプローチです。
しかも非常に効率のよいポピュレーションアプローチで、介入は一点で済むのにその先の全集団に効果を及ぼせるかなり経済効果の高い介入方法ですね。
「なぜこの井戸の水を飲まないほうがいいのか」を説明して納得させる、なんていう方法を好む経営者が多いのですが、そんなことをくだくだやっている暇があれば、まさに経営者主導のポピュレーションアプローチとして、ハンドルを壊すような健康経営を実践してほしいものです。
 
 
 

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