ホーム>心陽コラム>健康ニュース・最新研究>書籍 演劇 セミナー>民衆の敵
書籍 演劇 セミナー

民衆の敵

正しさなんて力がなければなんの役にも立たないでしょう?

イプセン、人形の家、なんとなくきいたことがありますか。
イプセンヘンリック(ヘンリク)・イプセン(Henrik Johan Ibsen)は1828年3月20日生まれで1906年5月23日に亡くなりました。
ノルウェー南部の小さな港町出身ですが、諸外国を転々とし、最終的にはローマで代人喜劇作家としての地位を確立、シェイクスピアと並び称される世界で最も著明な劇作家の一人です。

私は無類の芝居好きですが、日本語しかわからないので、翻訳劇は得意ではありません。

ただ、この芝居だけは仕事として観なければいけないと感じました。

主人公はまっすぐで正義を愛する医師です。

温泉を町の象徴としてPRするのはもともと彼のアイデアで、温泉の効果やその衛生上の設計など積極的に取り組んできたのですが、衛生上の助言に関しては素人たちの金勘定が優先されてないがしろにされ、結果、衛生上の重大な欠点が明らかになります。
温泉の水質汚染に関する科学的な証拠をしっかりと収集した主人公のトマス・ストックマン医師は、正義感を持って科学的な真実を公表し、せっかくの町の看板である温泉をしっかりとしたものに改善しようと、英雄になってしまうかもしれない恥ずかしさを含ませながら民衆に問おうとします。
公表の寸前まで、世論を左右する新聞社の連中も好意的でした。

つまり、まさに公衆衛生、産業保健とその正義をテーマにした戯曲であり、芝居と産業保健を愛する私にとっては観ないわけにはいきませんでした。

そう、「正しさなんて力がなければなんの役にも立たないでしょう?」というストックマン医師の妻カトリーネの台詞に、劇場で一番傷ついたのは私ではないかと思いました。

民衆の力

「そう、そうだ、いくら野次を飛ばしたって否定はできない。多数派は力を握ってるーだからと言って多数派が正しいわけじゃない。正しいのは私やそのほか少数の人間だ。少数派はいつだって正しい」

民衆の敵

人の姿だと、あ~、この人、このやり方じゃダメだな~~~、言っていることは逐一正しいんだけどな~と、いくらか客観的にみえるのですが、上演中最初から最後まで、まるで叱られているような気分でした。

せっかく科学や知識を用いて、正しくて正義なことを主張するのに、その科学や知識を用いて、正しくて正義なことを主張することこそが、あたかも選民的であるように民衆からは嫌われてしまいます。

「貴族におなりあそばされた!」なんて嘲笑されてしまうのです。

インサイダー取引に世論誘導、権力が都合のいい事実を次々に書き換える筋書きは、Post Truth / Alternative Fact / Fake News 時代の現代にすんなりなじみます。

2019年、正義を唱える「民衆の敵」は、いったいどうしたら社会を救えるのだろうか。

136年前の芝居に、鼓舞されもしたが、打ちのめされもした夜でした。

パイプに囲まれた島状の舞台のそこかしこで、コロス的な民衆による象徴的な音と群舞。
芝居らしい芝居を観た気になりました。

 

 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.shinyo.pro/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/304

ページ上部へ