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機械学習による傷病休業後の復職予測モデル

A Machine Learning-Based Predictive Model of Return to Work after Sick Leave

JOEMからホヤホヤの研究を共有します。復職(Return to Work)は一般的にも、本研究でもRTWという略語を用いるので、それにならいます。

要約

目的:機械学習アルゴリズムを用いた病気休職後のRTW予測モデルの構築。
 
方法:韓国の労働福祉研究所から、2000人(男性1686人、女性314人)の雇用年金サービス(KCOMWEL)におけるパネル・データを使用し、予測モデルの構築にはGBM(勾配測定器)を用いた。
 
結果:GBMは、RTWのあるかなしかを明確に分類した一方で、3階層(オリジナルの仕事に復職・それ以外に復職・休職続行)の分類ではイマイチの結果しか残せなかった。
 
結論:機械学習アルゴリズムを用いた予測因子で、ある程度正確に復職するかしないかを予測することはできるが、オリジナルの仕事への復職かそれ以外の仕事に復帰するかという復職のスタイルまで充分に予測することはできなかった。欠勤の事由(疾病かケガか、疾病やけがの種類や重症度)は予後を予測する重要な要素と考えられるが今回は考慮していないので、今後の検証が待たれる。

傷病休業からの復職

たとえばオーストラリアの業務関連性のケガによるコストはGDPの5.9%で、労働者の傷病休業というのは、本人だけでなく国レベルで生産性に影響する大事な要素です。
 
傷病休業の発生は企業にとってはむろん大きなコストであり、労働者個人にとっても、休業の原因になった疾病に限らず、今後の健康資本を左右し、当然、金銭的にも社会的にも資本が不足するというQOLに関わる一大事です。
先のブログで触れたとおり、休業の発生そのものはネガティブショックという急性のイベントですが、それはその後の長い人生において、SCARとして長く残ることになります。
 
だからこそ労働者個人レベルで、そして産業保健という企業レベルで、その上の政策や法令、景気操作という国レベルで、傷病休業の発生予防と、実際に発生してしまった休業への対策が必要です。傷病を予防するための安全衛生管理と傷病休職による急性慢性のデメリットを保障する介入です。
たとえば、金銭的な保障はもちろん、個人レベルの治療や療養も対策の一つですが、休業と健康の関係を詳しくみる社会疫学の研究から、お金(経済的剥奪モデル)だけでは失業による健康の増悪を説明しきれません。仕事がもたらす経済面以外の便益、たとえば1日の時間の使い方、人と関わる機会、自尊心や地位の形成、社会への貢献意義の提供などの潜在的機能が重要であると考えられるので、やはり、休業への対策として最も有効なのは復職で、復職期間を短くすることは産業保健部門の大目的です。
休職者に役割を提供する試みは、先行研究においても、そこに金銭的報酬を与えなくても休職者の健康にとっては有益で、役割(仕事)と経済的な保障を別々に与える方法も有効です。そう考えると、なんであっても仕事があるほうがよさそうなので、この研究のモデルというところのオリジナル職場への復帰以外の働き方であっても、働かないよりはずっといいことがわかります。
そして、時系列としてこの三階層レベル(個人・企業・国)が次に取り組むのは復職に関する対策です。両立支援を含む復職支援や復職のリスクファクター分析には先行研究が多い一方で、それではその結果をもとに介入しようとなると、なかなか効果的な介入が見つかりません。これといった介入に至らない理由は、傷病といってもさまざまな上、個人の性格や企業の風土など多因子が絡み合う傷病休業全体に効く介入という前提が無茶であるためかもしれません。
そこでまず、そろそろ復職できそうな人か、できそうもない人かを判定することができれば、後者には療養に専念してもらっておいて、前者にのみ復職支援を行えるからこそ、より有効な介入になるのではないかというのが、この研究の動機です。
つまり、一種のハイリスク戦略なわけですね。
 
職場復帰の原則は休業前と同一職場で同一業務(オリジナル復職)です。休業の理由がなんであれ、労務の提供をしないから休業しているわけで、企業からみればアブセンティーイズムというコストは同様です。それはサボりでも旅行でも傷病でも同じことで、労務の提供をしないことは本来、労働契約違反であるところを、療養によって労務提供可能の状態に復する見込みをもって、特例を行なうのが傷病休職です。労働契約を保留し、労働者としての自己保健義務を果たしている状態です。もとの業務に戻る見込みがなければ、日本のルール上は休職ではなく、最初から、辞めるしかありません。もし、当該労働者に一定の療養期間を経て、別の業務をしてほしい、そしてその業務なら可能だと考えても、その別の業務に対して雇いなおすのが理屈です。なので、この研究のオリジナル職場とそれ以外という境界線が非常にトリッキーなのです。
 
この研究におけるクールな分別は、復職を、①傷病休職者がもとの仕事に戻るオリジナル復職 ②傷病者がもとの職場に戻らない復職 に分けます。
②もとの職場に戻らないで復職するのは、異動や転職により別の職場で働くことだけでなく、自ら起業することも含みます。
そして③働かないという三分類で検証しました。
 
研究に使用した雇用年金のパネルデータは2,000データで、そのうち1,412人が復職(上記①・②)し、残り588人が復職しませんでした(③)。
 
研究結果としては、復職する(①・②)かしない(③)かの予測はかなり精密にできた一方で、元に職場に戻るか(①)戻らないか(②)については、ばっちり線が引けるとは言いがたいというところでした。
 
限界としてはケガと病気を分けていないし、ケガと病気の中でも疾病ごとの分類は行なっていない点、パネルデータなので、その時点での休職復職をカウントしてしまっている点、最後に同じく前の点と重なる部分もあるが、復職の定義が曖昧な点という三点が挙げられていますが、ベテラン産業医を中心とする有識者会議で決定された因子は概ね予測に役立つ結果でした。特に自己効力感はほかの因子では説明しづらい①と②の区別にも効果を発揮しました。
 
これを現実の産業保健現場でどう利用できるのか、もしくは労働法制や雇用政策にどう活かせるのか、を考えてナンボなのですが、企業サイドに取ってみると、境界線は①と②にあるような気がするので、これは惜しいですよね。私見としてはこれが一番の限界であるような気がします。
②のオプションが、これからのダイバーシティ、ワークシフトのワーキングライフの中で、非常に重要な位置づけを占めてくると期待できるからです。
たとえば医学部を出て臨床医にならないともったいないとか、おちこぼれだとかいう雰囲気がどこかにあり、研修期間中にやはり対人サービス業は向いていないということを痛感しても、その線路から下りる勇気が持てない場合があります。医学部を出るくらいだからかなり能力は高く、若くて健康な社会にとってすばらしいヒューマンキャピタルなのにもかかわらず、適材適所と言えない職場で仕事を楽しまない将来を選択し、とうぜん自己効力感が持てないのは目に見えています。そんな事実を発生させてしまわないために何ができるか、ここが重要ですよね。
オリジナルの仕事に戻る①の従業員に対しては、ともかく休職以前の本人を含むその他大勢の社員と全く同様に扱うことが重要です。全く同様にあらんかぎりの就業支援をするという意味です。休職で会社にコストを与えたのは事実ですが、本人も休職してその対価を払っています。復職できるから復職する人に対しては、復職後、復職経験を一切考慮する必要はありません。
とはいえ、疾病休職からの復職の場合は治療の継続をしている場合がほとんどですので、それに対する両立支援は業務支援として存分に行なって下さい。そこに復職は関係ありません。傷病休業を挟んでも挟まなくても、疾病と業務の両立支援は企業の責務です。
理想としては②のオプションを人事のプロがうまく提案できることでしょうけれど、なかなか難しいですよね。結局、日本の制度の中では①か③かの二択で考えるしかなく、あとは友人として②のオプションがあるという事実のみを伝えるということになりますでしょうか。もったいないのは、本当は②なのに、①ができないから③にとどまってしまう人々で、これが最も大きく失われているヒューマンキャピタルではないか、このヒューマンキャピタルに気付き、最大化することで、国単位で見たときの生産性は大きく上がるのではないか、この②を②としてまずはしっかりと資産価値を可視化し、それを強みとして全体の生産性向上につなげていきたい、というのが私の本研究への感想です。
 
復職予測
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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