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健康経営

働き方は健康をアゲる

天国と地獄の長い箸

健康経営のために、何か新しい業務を加えたり、特別な施設を作ったり、大がかりなイベントを開催したりしなければならないなんてことはありません。
むしろ、そんなふうに「健康経営」の名を冠した商品やサービスについつい手を伸ばして、お金を払ってやった気になっている経営者は危険です。それはたんなるマスターベーション、気持ちいいのはあなただけです。
 
本日は2つの古い研究から、人も業務も今のままでいいことをお伝えしますが、まずはしつこいほどに引用する、私の大好きな仏教の法話から。
 
地獄と天国には同じ長ーい箸と同じごちそうがあります。
 

桂コーチ 天国 地獄 長い箸

地獄では箸が長すぎてごちそうが掴めないので、みんなが飢えてイライラしてハラスメント三昧です。
あるビジネスマンが地獄で、「この組織に必要なものはなんですか?」と問うと、「適切な長さの箸です」とみんなが一斉に答えます。「いくらでも買う!」と言うので、適切な長さの箸をがんばって製造しますが、結果、借金まみれの地獄では予算が下りずに売れません。
 
天国では長ーい箸でつまんだごちそうを遠くの誰かの口に運びます。みんなが誰かに与え、みんなが誰かに与えられています。これが、社会疫学的に言えばソーシャルサポートです。全員が満ち足りて、たいへん幸せです。
「適切な長さの箸はいかがですか」と懐も潤っている天国に営業をかけると、「自分のための箸なんて、相手を喜ばせる幸せも、相手からしてもらう幸せも得られないじゃないの! ばっかじゃないの!(爆)」ってな感じでおつむの弱い人扱いを受けます。
 
まあ、この話はあまりに繰り返しすぎたので、今回は少しふざけてみました。ちなみに生涯、引用し続けることになるこの逸話を最初に教えてくれたのはこの桂コーチです(「エースをねらえ!」より)。ひょっとしたら、私の坊主頭ハンサムフェチはこの頃、はじまったのかもしれません。
 
さて、冒頭の「健康経営」と名のついたウォーターサーバーとかヨガ体験とかお弁当とか、それは地獄にしかニーズのない、適切な長さの箸ではありませんか? 今あるセッティング、今の業務、今のメンバーで、全員が最高に幸せになって生産性が上がる方法がきっとあります。それは人間、誰でも、ありのままで健康(ウェルビーイング)になれるのと同じことです。
たとえば視力がよくないとか、聴力がよくないとか、LGBTだとか、ハーバードを出てるとか、そんなことでウェルビーイングの獲得が邪魔されることなんてけっしてありません。
 
健康経営をはじめる経営者の皆さん、「何が足りないか?」と外を見るのはやめてください。
ここに、必要なものはみーんな揃ってます。新しいものを足さずに、今のメンバーで、今の商品で、健康経営はできます。
健康経営が進むとともに、商品やサービスについては、多くの場合、拡がりが出てきますが、最初は不要です。

Man's Search for Meaning: The Case of Legos

レゴのロボット

アカデミアにもときどきおもしろい人がいて、このタイトル、日本では「夜の霧」として訳されている、ナチスの強制収容所における体験を記した精神分析学者、V.E.フランクル氏の名著のタイトル「Man's Search For Meaning」をパクっていますね。

ハーバード大学院生にレゴロボット制作数に応じた報酬を得られる業務を課し、F群では出来を褒め感謝し、完成品を軍隊のように並べて撮影させる一方、L群では無言で目の前でできたそばからぐっちゃぐたに壊します。
どちらもなんの役に立つのかわからない単調な仕事で、報酬は同様、ただ、扱いが違うだけですが、同じ時間での総制作数は表の通りでした。
 
報酬に関しては最初の1体目が2ドルで、そのあと作れば作るほど目減りしていくんですね、だから、途中からは経済的なインセンティブは動機にならないんですが、なんだかゾーンに入っちゃって21体、22体作りはじめる輩がいましたね。このようなワークエンゲージメントはワーカホリックの原因にもなりますが、このゾーンに入るとストレスのパフォーマンス向上作用だけが表に出て、バーンアウトすることはありません。まあ、それにしても過重労働はいけませんよ。
 
もちろん、楽しめる、没頭できる仕事を与えることは素晴らしいですが、すべての業務プロセスがただ楽しくはありません。そこはいかに経営者が、管理職が、天国と同様の職場風土を作れるか、レゴのロボットを目の前でものもいわず壊すような対応をしていないかを、胸に手を当てて考えてみて下さい。
 
この研究では、MITの大学院生を対象にした別の実験も行なっています。オープンアクセスなので、ぜひ読んでみて下さい。

Psychological and physiological stress reactions of male and female assembly worlers: a comparison between two different forms of work organization

 
もう一つは天国と地獄の話並みに私が引用する話で、ベルトコンベアーで単調な仕事を行なうライン方式と、チームで協力してクリエイティブな仕事を行なう方式を比較した研究です。
ひとりで最初から最後まで作るより、ライン作業の効率がいいのは産業革命そのものの発見であり、これに異論を唱える人はいません。作業工程を細かくわければわけるほど、各工程の作業を誰でもできる単調で簡単なものにすればするほど、生産性が上がります。
テイラーの科学的生産管理は人間を機械のようにみていると批判されましたが、まさにこれは人間を機械のように無機的なものだと考えています。
 
しかし、人間は生き物で、どんどんどんどん成長しちゃうものなのです。
人間のパフォーマンスが一定で変わらないのなら、そのしっかりとかたまった能力を細かく区切ったプロセスごとに配置すればいいし、それがほんとの適材適所になるかもしれません。
そして一人で行なうセル方式ではなく、チームで行なう働き方だと、さらに相加相乗効果の嵐が起きまくります。
 
年の離れた子どもを育てた友人の母が、「一人目は若さで、二人目は知恵で育てた」と話してくれましたが、これはまさに健康経営そのものの名言、母として最適の年齢は作るものだとわかります。今ここにあるものを強みにする、素晴らしい発想です。
 
スウェーデンのVolvo社で、1台の車を作るライン工程のメンバー全員を一つのチーム制にして、同じように車を1台作らせました。
産業革命的には当然、生産性は下がるはずですが、生産性は下がりませんでした。
そして、メンバーの健康状態は全員、飛躍的に向上しました。
さて、何が起こったでしょう?? チームのメンバーは能力差もあり、得手不得手もあり、コミュニケーションも取らなければならず、誰かが采配もせねばならず、そんな中で明らかにメンバーの何人かは、200%とか300%とかのパフォーマンスの向上を見せたことでしょう。
そもそもラインでやるのがパフォーマンスが不変なら最大生産性になるのは間違いないんです。それなのに生産性が劣らなかったのは、パフォーマンスを上げたからに他なりません。なぜパフォーマンスが上がったのか? 楽しいから、健康だから、やりがいあるからです。メンバーにはあまりスキルの高くない人もいたでしょう、教えることで気付いたこともあるでしょう、自分の強みを見つけた人もいるでしょう、リーダーシップに目覚めた人もいるでしょう、もう、想像するだけでワクワクしませんか?
そして、心理社会的な満足というのは、それを具体的に味わっていなくても、そのチームにいるだけで集団免疫的に恩恵を受けることが数々の社会疫学研究からわかっています。
 

チームワークあ、そうです、考察についてはすべて私見です。著者の考察は皆さん、ご自分で読んで下さい。

きっと、この働き方の喜びに気付いたメンバーは、「でもさ、いくら楽しくても、生産性が低かったら、またラインに戻すって言い出すんじゃない?」みたいな不安から、協力し合って、ラインと同じ生産性を保ったのでしょう。
実際、実験終了後、こんなによい結果でしたが、ラインに戻しました。私としては、このままどんどん創造的な仕事をしていけば、生産性はより高まったと思います。
つまり、優れたジョブデザインは健康もキャリアも同時に向上するんです。
 
健康経営において、増進するのは健康ではなく、キャリアであると考えるほうが楽ですし、だいたい合ってます。
ウェルビーイングとキャリアの関係は双方向性に相乗的というだけでなく、ほとんど同一概念でさえあり、経営者にとってウェルビーイングよりもキャリアのほうが想像しやすいからです。
 
ライン方式のまま、健康的な水に変えたって、ヨガ体験をしたって、生産性は変わりません。
経営者って、すごくステキです。従業員に心も体も社会的にも健康になって満ち足りて、やりがいに溢れてキャリアもステップアップするそんな仕事を与えることができるのですから。
 
うちは○○だから、、、小規模だからとか、製造業だからとか、高齢者が多いからとか、借金があるからとか、、、、そういうのはいりません。どんな企業も、どんな組織も、人に喜びを与える材料も、喜びを受け取る人材も、すでに備えているのですから。
 

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