ホーム>心陽コラム>健康ニュース・最新研究>健康経営と科学的エビデンス 
健康ニュース・最新研究

健康経営と科学的エビデンス 

巷には科学的エビデンスのない健康情報があふれている

JOEM

おかげさまで、
結束が強く、格差が少なく、コミュニケーションが豊富な心理社会的環境を有する組織のメンバーは健康になる
という2011年の創業以来の主張が、科学的エビデンスとして認められました。
 
せっかくなので、これを次回のコラムで解説したいと思いますが、英語も科学も得意な方は、論文のほうをご覧下さい。英語も科学もド素人だった私が、科学的エビデンスとは何かを理解した過程を、お伝えしたいと考えています。
現在も、「ド」が外れた程度ですが(笑)
 
本日は解説に先立って、エビデンスってそもそもなに?というお話をします。
 

ちまたには科学的エビデンスのない健康情報があふれていると、よくききますが、そもそも科学的エビデンスのある健康情報って、あまりイメージできません。

というのも、まずは、健康を科学的に定義するのが難しいいかもしれません。

健康とSRH

WHO(世界保健機構)憲章(1964年)によると

「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」

(日本WHO協会訳)です。

WHO憲章

つまり健康は主観的な満足感による抽象概念なので、その具体的な姿は多様です。
私が私のLIFE(命、人生、生活)に納得している状態です。
健康は幸福や嗜好のような主観的なもので、「The 健康」という客観的なエビデンスは存在しません。

 

20209611837.png「健康診断の結果、所見なし」はすばらしいことですが、それと「健康かどうか」「どれくらい健康か」はまったく関係がありません。

そもそも健康や健康情報への欲求は、性欲や睡眠欲などの生物としての本能的な生命活動への欲求ではなく、まさに心理社会的な想念です。
 
生物のうち、「健康になりたい」と考えるのは、人間くらいのものです。
 
1970年にエンゲルが提唱したBPSヘルスに対して、お受験気質な日本人はつい、肉体、精神、社会という独立した健康科目があると誤解してしまいます。
特別なテストで得点を出して、科目基準点および総合点で健康の合否を判定しようと発想して、コストをかけてでも「よいテスト」を探そうとします。
多くの企業がこぞって、「健康経営」の名のもとに自社のセミナーやテストを売り込みますが、リテラシーの向上による健康増進効果は、まじめな聴講者にとっても5%程度です。

残念ながら、健康を測定できるテストとして有用なのは、SRH(Self-Rated Health:自覚的健康観)だけでしょう。
 

科学的エビデンスと公衆衛生

国や企業など、特定の集団を管理する組織に対して、社会全体をより良い方向に変えていく健康関連の具体策を提案し、その実行を支援するのが公衆衛生家です。

20209611343.png

冒頭の論文のおかげで、このたび公衆衛生学博士になりましたので、公衆衛生家として、ますます健康関連の具体策を企業に提案、実行支援していきます!
 
この具体策がユニバーサルで持続可能な全体最適解であると管理組織に納得させ、実行させるためには、科学的エビデンスと妥当性が必須です。
健康とは私が私のLIFE(命、人生、生活)に納得している状態と書きましたが、組織レベルの健康においても、この納得感は非常に重要です。
健康経営の具体策において、多くの企業では従業員の納得感を重視していることでしょう。
健康経営が経営者の独りよがりで、宗教や警察になってしまっては意味がありません。
自社には健康経営など不要と多くの従業員が考えているとしたら、健康経営施策を行なわないという判断は、従業員の納得感を高め、結果、従業員の健康を向上させる可能性があります。
 
さまざまな経営判断において、妥当性はあいみつや稟議等で細かく検証されていますが、学術機関でない場合は、あまり科学的エビデンスを重んじないことが多いでしょう。
取引先のメインバンクや他の顧客実績などは妥当性としてよく検証されますし、弊社もしばしば尋ねられますが、悲しいかな、弊社の売りである本物の科学的エビデンスが重視されたことはありません。
公衆衛生家が経営者と異なるのは、この科学的エビデンスへのアクセスだけなので、気にしていただけるとありがたいのですが・・・
 
一方、医療の世界は科学的エビデンスが非常に重要で、まずは科学的エビデンスありきで妥当性を検証します。
公衆衛生学や医学に限らず、組織心理学、行動経済学、社会学などには古今東西の賢い人々がたいへんなコストをかけて打ち出したすばらしい科学的エビデンスが無数にあり、そのエッセンスを用いると、たまたまではなく、必然的に予想した結果が起こることを保証してくれています。
 

202096132644.jpg過去の取引実績や成功者の伝記などはわくわくはするのですが、それを真似たからといって同じ成功は実現できません。

しかし、科学的エビデンスというのは、科学的に説明がついたり、偶然ではないと確かめられたりしているので、真似ることで同じ効果が期待できますし、私たちが日常に受ける医療は、このスタイルです。
治療方法は医師が決定しているのではなく、すでに決定しているのです。科学的エビデンスのある選択肢を示して、妥当性で落としどころを決めるのが、一般的な医療のインフォームドコンセントです。
臨床医は科学的エビデンスのない策を提案することはありません。
 

202096132748.png科学的エビデンスは特定の結果(身体疾患に限らず、精神疾患、気分、認知機能、離職、休職、離婚など心理社会的な結果を含む)に対するリスクの高低で示すことが多いです。

たとえば「1日35本以上タバコを吸う人は、非喫煙者の115倍肺気腫になりやすい」とか、「睡眠時間が5時間以下だと、7時間以上眠る人に比べて、3.54倍メンタルヘルス不調で休職しやすい」のように、絶対的な数値で示されます。(2つの図を参照してください)

この科学的エビデンスを用いて、「喫煙は不健康」と表現するのは自由ですが、「喫煙は不健康」は、科学的エビデンスではありません。
科学的に知られているのは肺気腫患者の90%に喫煙歴があり、喫煙が肺気腫を発病させる生物学的なメカニズムがわかっていて、理論上も、現実にも、禁煙によって肺気腫の発症リスクは明らかに減ることは科学的エビデンスです。
 

20201010165553.png

健康や不健康には絶対性がないので、エビデンスの対象になり得ませんが、「私の健康」を主観的に数値化したSRHには、多数の疾患リスクを下げるというエビデンスがあります。
科学的エビデンスを世に出すには莫大なコストがかかりますが、古今東西の研究者の努力のおかげで、毎日アップデートされています。
コストはお金、時間、そして賢さですから、学究に頼るしかありません。
非医療系一般企業の稟議はとうていクリアされないくらい莫大なコストです。
 
たとえば労働者のSRHとパフォーマンスの相関、特定の症状とプレゼンティーイズムやアブセンティーイズム、離職率など生産性因子の相関、結束が強い、格差が少ない、コミュニケーションが豊富な組織それぞれとそのメンバーの特定の疾患リスクの低下効果などの科学的エビデンスがあります。
 
一方で妥当性は相対的です。全従業員の寿命を確実に1日ずつ延ばす施策にかかる費用が1人1,000円だったら迷わなくても、1人1億円だったら非現実的です。組織(企業)が人間(労働者)の健康を向上させる施策には、科学的なエビデンスだけでなく社会的な妥当性が必要です。
それでは3,000円なら払う、5,000円なら払うというのは、企業の多様な要因によるのは想像がつくでしょう。

健康経営

人的資本とは、健康や職能のように組織ではなく労働者個人が所有する資産で、会社が変わっても、引退しても、労働者個人に残ります。
労働者がその人的資本を家庭や社会に還元したとしても、本人から人的資本が失われることはないどころか、向上することが多いでしょう。
得意なことを誰かに教えることを想像してみてください。
202096163223.JPG
 
20201017212233.JPG
戦後、衛生要因から心理社会的要因に複雑化した人々の健康を支えるために、法定産業保健が果たした影響はこの図に示す労災死亡減少からも明らかですが、バブル崩壊からの新時代に対する企業の健康関連施策はあまり進化していません。
健康経営銘柄企業においても、従業員の健康管理や疾病予防に重点が置かれていて、本当のポピュレーションアプローチによる実践は遅れているようです。
現在の具体策は公衆衛生より医療色が強いものの、企業主導の従業員個人への医療は生産性向上に直結し、コラボヘルスや医療費削減を実現します。
個人に対するオーダーメイドの医療視点で、組織を平均値や有病率で評価していますが、もっとよい方法があります。
特に新型コロナウイルス感染症の流行を経た今、新しい健康経営の具体策が求められていると言えるでしょう。
医療と公衆衛生をいいとこ取りして、普遍的な医学と人体の生理を利用し、法定労働衛生と日本特有の診療制度をクリアした上で、最も妥当な具体策を提案できるのは公衆衛生学博士、急性期臨床専門医(麻酔科専門医)、労働衛生コンサルタントである私だけです。
私は心理社会的な組織文化の醸成オンライン診療の両因子で科学的エビデンスを世に出しています。
 
 
 
 

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://www.shinyo.pro/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/341

ページ上部へ